いよいよ9月に突入しましたが、この時期は「十五夜」…つまりお月見の季節ですね。
日本では古来より「月にはウサギがいる」と信じられてきていますが、果たして他の国々でも同じように考えられているのでしょうか。
本記事では、国によって月の見え方などに違いがあるのかどうかを検証していきます。
「月にウサギがいる」というイメージは万国共通なのか?
月に「ウサギがいる」というイメージは、日本や中国など東アジアの文化に特有のものですが、外国では必ずしも同じではありません。
日本・中国・アジア圏での月のイメージ
日本では、古来より「餅をつくウサギ」として月の模様を見立てる伝承があります。
これは仏教説話(ジャータカ物語)に由来し、インドから中国、そして日本に伝わったとされます。
中国では「月のウサギ(玉兎/玉兔)」は不老不死の薬を作る存在として登場し、道教や嫦娥(じょうが/チャンオー)伝説と結びついています。
そして、韓国でも日本と同じように「餅をつくウサギ」として親しまれています。
西洋・その他の地域での月のイメージ
ヨーロッパ・北米では、月の模様は「ウサギ」ではなく 、「人の顔(The Man in the Moon)」 に見立てられるのが一般的です。
例えばイギリスでは「月の中の男」が薪を担いでいる姿、ドイツや北欧でも「顔」として語られることが多いです。
南アメリカやアフリカの一部には、月を「動物」に見立てる文化もあり、ウサギの解釈が見られる地域もありますが、アジアほど普遍的ではありません。
**中南米の一部(メソアメリカ文明)**では、実は「月にウサギ」の伝承が存在します。アステカ神話では、太陽神に投げられたウサギが月に映し出されたという話があります。
まとめると、国によって月のイメージは、以下のような違いがあります。
・ヨーロッパ・北米 → 「月の男(顔や人影)」
・中南米(アステカなど) → 「月のウサギ」の神話あり
・アフリカ・他地域 → 動物や人など、地域ごとにさまざまな解釈
つまり、「月にウサギ」のイメージは世界共通ではなく、東アジアとメソアメリカが特に共通して持っている不思議な文化的偶然だと言えるでしょう。
各地域ごとに「月にウサギがいる」と見立てた理由
「月にウサギがいる」と見立てた理由は、月の模様の形の解釈と、それを結びつける文化的な物語の存在によります。
地域ごとに背景が大きく異なっていますので、それぞれ整理しながら説明していきます。
日本・中国・韓国(東アジア)での見立ての背景
月の表面の黒い模様(海と呼ばれる部分)が、臼と杵で餅をつくウサギの姿に見えることもあり、特に耳を立てた姿と前足で臼をつく動作が想像しやすかったとされています。
インド仏教説話(ジャータカ物語)では、ウサギが自らの身を焼いて餓鬼(実は帝釈天)に施し、その徳を称えて月に上げられたという背景があります。
中国では「嫦娥(じょうが/チャンオー)」が月に逃げた伝説と結びつき、ウサギは「不老不死の薬(仙薬)」を作る存在になったと言われています。
日本・韓国では、中国経由で伝わった影響から「月で餅をつくウサギ」という形に定着しました。
中南米(アステカなどメソアメリカ)での見立ての背景
月の模様がウサギの影に見えたため。特に耳の部分が強調され、夜空の中でウサギの輪郭に結びついたとされています。
アステカ神話では、太陽の神が世界を照らす際、その光が強すぎたため神がウサギを月に投げつけ、影となって光を和らげた背景から、「月にウサギがいる」という伝承が生まれた可能性があるでしょう。
こちらはアジアの説話とは起源が異なり、偶然の一致と考えられています。
ヨーロッパ・北米での見立ての背景
ヨーロッパや北米などでは、月の模様をウサギではなく「人の顔」や「人影」などに見立て、特に両目と口に見える模様のバランスから「顔」に見える文化が広まったとされています。
イギリスやドイツでは「月の中の男(Man in the Moon)」として語られ、「罪を犯した人間が月に閉じ込められている」、「薪を担がされている」などの伝承にまで発展。
北欧神話では、月を司る神「マーニ」と結びつけられることもありました。
アフリカ・その他地域での見立ての背景
南部アフリカの一部では、月を動物に見立てる例もあり、「ウサギ」と解釈する部族も存在し、ここでも「耳のような模様」が解釈の決め手になりました。
様々な国で「月にウサギがいる」と見立てられた理由をまとめると以下のようになります。(※ただし、ヨーロッパや北米ではウサギに見立てられていません。)
・メソアメリカ:神話による偶然の一致 → 「投げつけられたウサギ」
・ヨーロッパ・北米:模様が「人の顔」に見えたため → 「月の男」
・アフリカなど:耳のような模様から「動物(時にウサギ)」
つまり、月の模様の形(耳っぽい部分)がまずきっかけで、そこに地域独自の神話や宗教的背景が加わることで「月にウサギがいる」という伝承が生まれたと言えるでしょう。
同じ月なのに「国ごとに見え方が違う」のは何故か?
「同じ月を見ているのに、国や地域ごとに“違うもの”に見立てられる」のは、大きく分けて以下の3つの理由があると考えられます。
2.地域ごとに異なる神話や宗教観が結びついたから
3.一度広まった解釈が伝承され、文化的に固定化したから
これらの「国によって月の見え方が違う理由」について詳しく分析していきましょう。
月の模様そのものの「曖昧さ」
月の表面に見える暗い部分(「月の海」と呼ばれる溶岩跡)は、はっきりした形ではなく、解釈の余地が多い模様です。
たとえば「耳」に見える部分を強調すれば「ウサギ」になりますし、「目と口」に注目すれば「人の顔」に見えるようになります。
つまり「見ようと思えば何にでも見える“だまし絵”」のような性質を持っているため、文化ごとに解釈が分かれたと言えるでしょう。
文化・神話との結びつき
アジア圏では、仏教や道教に「ウサギが薬を作る」説話があったため、模様を「ウサギ」に当てはめる文化が強まりました。
ヨーロッパでは「罪人が月に幽閉される」というキリスト教的な想像力と結びつき、顔や人影として解釈されるようになったとされています。
**中南米(アステカなど)**では「神がウサギを月に投げた」という神話があり、それに沿って「月のウサギ」と見られるようになったと言われています。
つまり「もともと存在する物語や宗教観」が、曖昧な模様をどの方向に“固定”するかを決定づけたと言えるでしょう。
集団的想像力と伝承の力
人は「何かに見える」と言われると、そのように見えやすくなります。(パレイドリア現象)
一度「これはウサギだ」と広まれば、そのイメージが固定化し、次世代にも伝承されていきます。
文化ごとに「最初に定着した見立て」が強固に受け継がれ、現在の“国ごとの見え方”の違いにつながったと言えるでしょう。
まとめ
月の模様は、地球のどこから眺めても同じはずなのに、私たち人間の目と心を通すと、国や文化によってまったく異なる姿として語られてきました。
日本では「餅をつくウサギ」、中国では「不老不死の薬を作るウサギ」、中東では「吠えるライオン」、アメリカでは「ロバ」や「横たわる女性」など……。
結局のところ、見えているのは同じ月面ですが、その解釈には人々の歴史や暮らし、想像力が大きく影響しているのです。
「自分たちの文化が月に映し出されている」と考えると、月はただの天体ではなく、人類の心を映す鏡のように思えてきますね。
秋の夜長に空を見上げたとき、あなたの目にはどんな月が浮かび上がるでしょうか。